新シリーズ書籍紹介(エンタメ中心)です。宝探しの冒険(EQ)。
■ 書誌情報
作品名:宝探しの冒険
原題:The Adventure of the Treasure Hunt
著者:エラリー・クイーン
収録書名:エラリー・クイーンの新冒険
発表年:1940年
形式:短編小説
ジャンル:本格ミステリ
母親が友達からもらったという文庫本で読みました。井上勇訳(1970年頃)の版です。「下馬だ」小学生のころ意味が分からなかった思い出(駄馬みたいなこと?って思ってました)。 短編は長編に比べて肩に力が入らず、気楽に読めるのがよいところだと思います。 本作は、登場人物たちが宝探しゲーム※を楽しみながら、最後に犯人と盗まれた品物のありかへとたどり着く、という趣向で物語が進みます。
※宝探しゲームとは、「言葉のパズルを解きながら進む知的なスタンプラリー」のようなものです。 メモを渡され、そこに書かれた謎を解いて次のメモ(の場所)を探す。 それを何度か繰り返し、最後の謎「宝のありか」に最初にたどり着いた者が勝となります。
作中ではほかに「殺人ゲーム」を楽しんだという記述もありますが、こちらは「遊んだ」という事実に触れられるだけで、具体的な内容は明かされません。 ただし、そのゲームのためにエラリーが参加者の指紋を採取した、という描写があります。
ゲームのためとはいえ、客である他人の指紋を取るという行為は、現代の感覚では人権的にかなりデリケートな問題に思えます。 当時はそれだけ社会全体がおおらかだった、ということなのでしょうか。
宝捜しの冒険:解説とあらすじ
物語の舞台:断崖に立つ要塞
物語は、ハドソン川を見下ろす断崖絶壁に建てられたバレット少将の邸宅で幕を開ける。ここは、急峻な崖に三方を囲まれ、唯一の陸路は厳重に監視された門へと続く、まさに「陸の孤島」である。邸宅の主、バレット少将は退役軍人であり、その生活は軍隊式の規律と伝統に貫かれている。使用人までもが元部下の在郷軍人であり、敷地内には入り日を告げるための大砲が据え付けられているなど、彼の性格を色濃く反映した特異な空間となっている。
「わしは軍事上の見地から、この崖が好きなんだ、川を制圧していて。小型のウェスト・ポイントだよ、断然」
— バレット少将
この隔絶された要塞のような邸宅で、招待客たちが集う週末に、一つの事件が発生する。
主要登場人物
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人物名 |
役割・特徴 |
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エラリー・クイーン |
主人公。休暇で邸宅を訪れていた名探偵。鋭い観察眼と論理的な思考で事件の謎に挑む。 |
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バレット少将 |
邸宅の主である退役軍人。頑固で伝統を重んじる。部下や使用人からの信頼は厚い。 |
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レオニー・バレット |
少将の娘。快活で気が強いが、婚約者を深く愛している。盗まれた首飾りの持ち主。 |
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リチャード・フィスク中尉 |
レオニーの婚約者。実直な若い陸軍士官。母親の形見である首飾りをレオニーに贈った。 |
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ハークネス |
猛獣狩りの名人として知られる、屈強な肉体を持つ客。冒険家肌で自信に満ちている。 |
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ニクソン夫人 |
邸宅に滞在している客。背が高く、赤毛と琥珀色の目を持つミステリアスな女性。 |
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ブロウン |
崖下の船着き場にいる元在郷軍人。少将に絶対の忠誠を誓っている。 |
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マグルーダー |
邸宅へ続く唯一の門の番人。彼もまた元在郷軍人である。 |
あらすじ:消えた真珠の首飾り
バレット少将の邸宅で過ごす週末。前夜には、客たちが参加して「殺人遊び」が行われ、エラリーが遊び心から参加者全員の指紋を採取するという一幕があった。
翌朝、邸宅に衝撃が走る。レオニー・バレットの寝室から、婚約者フィスク中尉が贈った2万5千ドル相当の真珠の首飾りが忽然と姿を消したのだ。盗難があったのは、レオニーが朝6時頃に一度目を覚ましてから、7時45分に盗難に気づくまでのわずかな時間と推定された。
警察を呼ぶことをためらう一家に対し、エラリーは内密に捜査を開始する。しかし、謎は深まるばかりだった。
閉ざされた空間の謎
この事件は、典型的な「クローズド・サークル(閉ざされた空間)」の謎を提示する。
- 物理的な隔絶: 邸宅は断崖に囲まれ、外部との接触は極めて困難。
- 鉄壁の監視: 唯一の陸路は門番マグルーダーが、水路に通じる崖下の船着き場はブロウンが見張っていた。二人の証言によれば、事件発生時間帯に邸宅に出入りした者は一人もおらず、崖から何かが投げ捨てられた音も聞こえなかった。
これらの状況から、犯人と盗まれた首飾りはまだ邸宅の敷地内に留まっていると結論付けられる。しかし、エラリー自身による家宅捜索や、少将の部下たちによる敷地全体の徹底的な捜索にもかかわらず、首飾りは影も形も見つからなかった。
「すべて調査というものの本質は、閣下、どれだけの可能性を消去できるかという問題に帰着します。」
— エラリー・クイーン
犯人は、この鉄壁の監視網をいかにして突破し、首飾りを隠し、そして外部へ持ち出そうと計画したのか。捜査が行き詰まる中、エラリーは意外な提案をする。
宝探しゲームの始まり
昼食後、エラリーは客たちに「宝探しゲーム」をしようと持ちかける。彼が屋敷のどこかに「宝」を隠し、参加者たちは引用句の形をした謎めいた手がかりを一つずつ解き明かしながら宝を目指すという趣向だ。
「わたしは、どこかに 《宝》を隠しておきました。 そして、手がかりが残してあります。───もちろん、ひねくった手がかりでありまして、みなさんは、一歩一歩それをたぐってゆかなくてはなりません。」
— エラリー・クイーン
一見、退屈しのぎの遊びに見えるこのゲームは、実はエラリーが巧妙に仕掛けた罠だった。参加者たちが謎解きに興じる中、エラリーは犯人の心理を巧みに操り、その正体と、首飾りの驚くべき隠し場所を暴き出そうとする。果たして、この宝探しの果てに待ち受ける「宝」とは何なのか。そして、エラリーは犯人をいかにして追い詰めていくのか。物語は、知的なゲームの背後で繰り広げられる、探偵と犯人との息詰まる頭脳戦へと突入していく。