新シリーズ書籍紹介(エンタメ中心)です。第一弾はEQエラリークイーンの神の灯。
■ 書誌情報
作品名:神の灯
原題:The Lamp of God
著者:エラリー・クイーン
収録書名:エラリー・クイーンの新冒険
発表年:1934年
形式:短編小説
ジャンル:本格ミステリ(パズル・ミステリ)
母親が友達からもらったという文庫本で読みました。井上勇訳(1970年頃)の版です。 今となっては手に入りにくい一冊ですが、翻訳の少し古臭い言い回しがかえって癖になります。 トリックについては「そうはならんやろ」と思わせる部分もありますが(推理小説あるある)、 エンターテインメントとしてはとても楽しめました。 短編ではあるものの、やや長めで、読み応えも適度にあります。
[雑学]登場人物の姓Mayhewの語源(AIによる解説)
聖書に登場する「マタイ(Matthew)」のフランス語形である「Mahieu(マユー)」から派生した。この名はヘブライ語で「神の贈り物」を意味する。1066年のノルマン・コンクエスト以降、ノルマン人によってイングランドへ持ち込まれ、その後、数世紀をかけて英語風の「Mayhew」という形に定着した。
読み進めると「神の贈り物」なるほどと思わせます。とするとMatthew Mayhewって名前の人いるのかな。
物語『神の灯』のあらすじ
この物語について
この要約は、ミステリー小説『神の灯』の序盤で提示される謎の核心部分を解説するものです。物語の主人公である名探偵エラリー・クイーンが、いかにして常識では考えられない不可能状況に直面するのか、その過程を順を追って紹介します。この要約には事件の真相に関するネタバレは一切含まれておらず、中心となる謎が提示された時点で締めくくられています。
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1. 序章:合理主義者エラリー・クイーン
物語の主人公エラリー・クイーンは、習慣の上ではだらしがないかもしれませんが、精神的には極めて整然とした人物です。彼の寝室にはネクタイや靴が乱雑に散らばっていても、その頭蓋骨の中では、よく油をさした機械が、まるで惑星系のように冷厳かつ正確に動いています。彼にとって、この世で起こる全ての出来事には合理的な説明がつくはずであり、超常現象や奇跡といった非科学的な概念を断固として否定しています。世界とは、明確な因果関係によって支配される、合理的な場所なのです。
そんな彼の鉄壁の世界観は、これから遭遇する奇妙な事件によって根底から揺さぶられることになります。
2. 発端:友人からの謎に満ちた電話
事件は、エラリーの旧友である弁護士ソーンからの1本の電話で幕を開けます。エラリーにとって「人間でできた一本石」のように冷静沈着なソーンからの、尋常ではない様子の電話の内容は、サスペンスの始まりを告げるものでした。
- 緊急の呼び出し (Urgent Summons): 普段の彼からは想像もつかないほど興奮し、走りでもしたかのように息を切らしたもつれた声。これが、ただ事ではない状況を即座に示唆します。
- 不可解な指示 (Puzzling Instructions): 2日分の旅行支度と、最も不穏なことにピストルの持参を要求。これは移動と危険が伴うことを意味します。
- 徹底した秘密主義 (Strict Secrecy): 一切の質問を禁じ、自分の「同僚」として振る舞うよう指示。これから足を踏み入れる状況が、何らかの策略を伴うものであることを示しています。
好奇心をかき立てられたエラリーはソーンの指示に従い、約束の波止場へと急ぎます。こうして、謎に満ちた冒険の幕が上がったのです。
3. 波止場にて:主要人物との出会い
キュナード社の汽船《コロニア》号が到着する波止場で、エラリーは事件の主要人物たちと顔を合わせます。そこには、目に見えるほどの緊張感が漂っていました。
- ソーン (Thorne): エラリーの旧友の弁護士。数週間前に会った時より何年も老け込み、ぼうぼうとした無精ひげに覆われている。その姿はまるで、スコッチじまの大外套の中で早死にした蛹のようにちぢこまっていました。
- ライナッハ医師 (Dr. Reinach): 大柄で太った男。その声は雷のとどろきのように胸の洞穴から響き、紫がかった小さな目は実に冷たい。サムエル・ジョンソンを思わせる巨体と、ひき蛙のような雰囲気を併せ持っています。
- アリス・メイヒュウ (Alice Mayhew): 英国から到着した若く美しい女性。亡きシルヴェスター・メイヒュウの娘。均整のとれたデリケートな顔立ちをしていますが、その装いは簡素で金のかからないものでした。
ひどく怯えているソーンと、謎めいた冷静さを保つライナッハ医師との間の緊張関係は、物語の詳細が語られる前から、事件の複雑さを予感させます。
アリス・メイヒュウを一行に加え、彼らは物語の主舞台となるロングアイランドの屋敷へと、重苦しく沈黙した車での旅を始めます。
4. ロングアイランドへの道:明かされる父の死と遺産
車は「神が忘れた土地」と呼ばれる、寂しく荒涼としたロングアイランドの奥深くへと進んでいきます。電線も電柱も見えず、幾度もの火事に見舞われた枯れ木が立ち並ぶ風景の中を、青ざめた心細い太陽が照らしています。この圧倒的な孤立感と荒廃の趣は、一行が目的地に到着する前から、不吉な予感を強めていました。この陰鬱な道のりの車中で、アリス(そして読者)に2つの重大な事実が告げられます。
舞台設定 (The Setting) | 明かされた事実 (The Revelations) |
「神が忘れた土地」と呼ばれる、寂しく荒涼としたロングアイランドの荒れ野。 | 1. アリスの父シルヴェスター・メイヒュウが数日前に亡くなったこと。 |
2. 父は全財産を金貨に変え、その隠し場所をアリスにだけ告げるつもりだったこと。 |
この啓示により、物語の動機が明確になります。それは、アリスだけが見つけられるはずだった「隠された莫大な遺産」の存在です。
やがて一行は、奇妙で孤立したメイヒュウ家の敷地、これから展開されるドラマの舞台に到着します。
5. 《黒い家》と《白い家》:不気味な舞台
メイヒュウ家の敷地には、2軒の家が向かい合って建っており、その雰囲気は実に対照的でした。
- 《黒い家》 (The Black House): 故シルヴェスター・メイヒュウが住んでいた、黒ずんだ石造りの屋敷。その壁は風雨にさらされ、まるで「むごたらしい癩病」に侵されたかのようでした。
- 《白い家》 (The White House): ライナッハ医師とその家族が住む、比較的小さな白い石造りの家。
周囲は荒れ野で、重苦しく不穏な空気が漂っています。一行が《黒い家》に足を踏み入れると、そこはまるで墓穴でした。かびと湿気のにおいが立ち込め、不潔な洞窟の中は、ちりや壊れたもので埋め尽くされています。この短い見学の中で、アリスは父が大切に保管していた、若き日の母の着色写真を見つけ、胸に抱きます。
夕食とそれに続く緊張した夜を経て、登場人物たちの間の対立は頂点に達しようとしていました。
6. 最大の謎:一夜にして消えた家
疑惑と奇妙な出来事に満ちた緊張の一夜が明けた翌朝、一行はソーンの「ほとんど泣き声に近い、細い、かすかな叫び声」によって起こされます。外に駆けつけたエラリーが目にしたのは、ソーンの顔に浮かぶ「かぎりない恐怖」と、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くす青年キースの姿でした。彼らの視線の先には、信じがたい光景が広がっていました。
昨日、確かに全員が足を踏み入れ、その壁に触れたはずの、あの巨大な3階建ての石造りの建物──《黒い家》が、一夜にして跡形もなく完全に消え失せていたのです。その場所には、ただ平らな、雪に覆われた空き地が広がるばかりでした。いかなる論理も理性も通用しないこの出来事は、エラリー・クイーンの探偵人生において、最も不可解な謎として彼の前に立ちはだかります。